遠い世界に旅に出ようか

音楽の教科書で知っている人がいるかもしれませんが、「遠い世界に」という歌が昔ありました。私が大学時代に在籍したユースホステル同好会のテーマソングでした。最近、自分自身旅に出たいと思うようになりました。旅のノウハウ、特に海外旅行に関して、いまさら聞けないような基本情報から深堀情報まで、自分なりに調べた結果を具体的にまとめて記録・保存したいと思いこのブログを立ち上げました。これをきっかけに旅に出る人が増えたらうれしいです。

飛鳥Ⅲ? ピースボートのエコシップは?

エコシップが日本のクルーズ船にも採用されます。エコシップの中身を深堀してみます。

今回は、ちょっと技術的な内容が多くなります。

難しい言い回しが出てくるかも知れませんが、ご容赦ください。

 

【エコシップとは?】

エコカーという言葉があります。環境に配慮し、省エネを実現する自動車ですが、船にも同様にエコシップという言葉があります。

環境負荷を低減(NOX、CO2、PM等)させ、燃費性能を高める技術が盛り込まれた船のことを指します。(燃費向上の手段は広範囲にわたります)

近年、船にもCO2の削減が要求されるようになってきており、規制も段階的に厳しくなってきています。これに対応する形で、クルーズ船にもエコシップ化の波が及んできています。

 

【クルーズ船のエンジンの歴史】

EV(電気自動車)がそうであるように、電動モーターで推力を得る技術は、最近始まったものではなく、100年以上前から存在しました。

19世紀前半にはモーターの原型が発明されたことで、船のスクリューもそれで回そうと考えるのが道理です。

しかし、効率や様々な技術的課題山積で、他の動力機関に後れを取り、特にクルーズ船での電気推進(モーター駆動)の採用は主流にならないまま、蒸気タービンの時代が続きました。

 

 

モーターの特徴は、静粛性です。そのため、電子制御技術がある程度実用レベルに達した1980年代にようやく、高級大型クルーズ船の一部にディーゼル電気推進システム(ディーゼルエンジンで発電し、その電力でモーターを回す)が搭載されるようになりました。その代表格が、クリーンエリザベス2でした。

それまでの蒸気タービンの代わりに9基のディーゼル発電機と大きなモーターが搭載されました。これによりクイーンエリザベス2はそれまでにない静粛性を得られ、超級クルーズ船として君臨しました。

ただし、初期費用・維持費用など様々なコストが高くつき、静粛性と引き換えにどれだけお金をつぎ込めるかの厳しい経営判断を迫られることになりました。

一般的なディーゼル発電機

90年代になると経済性が向上した新世代型電気推進システムが急速に普及し始め、クルーズ船だけでなく、他の船種にも採用されるようになりました。

これは、90年に電気推進システムを搭載して就航したカーニバル・クルーズの大型クルーズ船ファンタジーの功績が大きかったといわれています。

そして、わが日本の誇る飛鳥Ⅱの前身であるクリスタル・ハーモニーも90年に電気推進式のクルーズ船として就航しました。

その後、アジポッドと呼ばれる画期的なアイデアが開発され、カーニバル・クルーズがイレーションで採用しました。

 

カーニバル・クルーズのイレーション

アジポッドにより、消費電力の変化への対応、小回りの利く操作性、騒音・振動の低減、速度変化への対応等が向上し、経済性が大きく改善されました。

船の構造も単純化し部品点数の削減等により、船内設計に余裕ができ、建造時間も短縮可能になりました。

アジポッドあるいは同様のシステムは、大型クルーズ船の主流となりました。そんな中で、次にエコシップが求められる時代がやってきたのです。

 

【飛鳥Ⅱの郵船クルーズが新造船】

あの飛鳥Ⅱを所有している郵船クルーズ社ですが、同社としては34年ぶりの新造船が発表されています。2025年に就航予定です。

新造船でぶー

名前は「飛鳥Ⅲ」になるのかどうか、未だ決まっていません。

また新造船が就航する段階で、今の飛鳥Ⅱの処遇がどうなるのかもわかりません。2隻が同時に航海に出ることも考えられます。

新造船は5万1950トンとなる予定で、現状の「飛鳥Ⅱ」(5万444トン)とほぼ同じサイズになりそうです。ただし、乗客定員は飛鳥Ⅱの827人から740人と約85パーセントに減らして、一人当たりのスペースに余裕を持たせる設計になっています。スペースレシオ(総トン数÷定員)が70.2トンとなり、最高級として高い評価を受けているドイツのラグジュアリー客船「オイローパ」(2万8890トン)とほぼ同じ広さに該当するそうです。さらに全室バルコニー付きになるそうです。すばらしいですねぇ!

ただ、これで逆に気になるのが、旅行代金です。飛鳥Ⅱよりもさらに上がってしまわないか心配です。飛鳥Ⅱでも十分高くて、一般人にはなかなか手が出ないのですが、新造船がもっと高くなると、いよいよ雲の上の存在になってしまいます。

クルーズ代金に関して、郵船クルーズの坂本社長は「ラグジュアリーなサービスを提供することで、それがクルーズ代金に反映されることもあるかもしれない。」と値上げを肯定するような回答もしています。う~ん、やっぱり上がるのでしょうか・・・

新型コロナの影響でリモートワークが増えていますが、新造船では、船内Wi-Fiを充実させ、「仕事と余暇を両立する、いわゆるワーケーションを実現できる船になる。仕事をしながら世界一周クルーズができるようになる」とも表現していました。世界一周クルーズをしながら、寄港しているときは観光、終日船の中にいるときはリモートで仕事なんて優雅な働き方ができるようになるのかもしれません。

顧客ターゲットは日本人で、「和のおもてなし」を基本として、露天風呂を新造船にも設けるそうです。これにより逆に「和」を求める外国人にも受け入れられるのではないかという期待もあるようです。

また、飛鳥Ⅱよりも喫水(水面から船底までの距離)が浅くなるため、寄港地が増える可能性もあります。

飛鳥Ⅱとほぼ同じサイズにしたのは、飛鳥Ⅱレベルのきめ細かなサービスを実現するためということで、あまり大きくなると、サービスが雑になるという考え方なのでしょう。やはり郵船クルーズは、高級ラグジュアリー路線を維持し続ける経営方針にブレは無いようです。

 

コロナ禍にこのような大型投資に踏み切った背景には、コロナ前のクルーズ人気の上昇と、まだまだ伸びしろのある市場だということを、各金融機関も理解しているからだと言われています。これは、復活後の飛鳥Ⅱの予約もすぐに満席になってしまう状況をみると、当たっていると思います。

 

【新造船はエコシップ】

郵船クルーズの新造船は、環境に配慮するために、液化天然ガス(LNG)燃料、低硫黄燃料、ガスオイル燃料の3種の燃料に対応するデュアル・フュージョン・エンジンを搭載しています。それほど大きくないこのサイズの船では世界初だそうです。これにより環境規制が厳しい地域も航行できるようになります。

ほかにも、日本客船としては初めて陸上電源を利用できるようになっています。これは寄港した際に、船内への電気を陸上から供給するためのものです。利点として、寄港している際に船のエンジン(発電機)を停止させることができ、一般的に効率のいい(コストの安い)電気を陸上から得ることができます。陸上からの電気がクリーンエネルギーであれば、さらに環境にやさしいということになります。

今回の新造船はドイツのマイヤーベルフトという造船所で造られるそうです。技術的、経験的なところで決まったようですが、日本の造船所ではないのがちょっと残念です。

 

新造船の完成イメージです。

順番に、プールデッキ、フォーシーズンズダイニングルーム、ロイヤルスイートダイニングテーブルです。

環境に配慮した点はすばらしいのですが、以上のような状況から考えると、造船のコストが多少上がるのは否めません。やはり、新造船のクルーズ代金が最も気になるところです。

高級ラグジュアリー化に磨きをかけた新しい郵船クルーズ船、2025年、あと少しで見ることができます。期待したいと思います。

 

【ピースボートのエコシップ】

ピースボートは環境問題にも大きく関わっているNGOですから、エコシップにも積極的に動いています。

ピースボートはこれまで外国船をチャーターすることで、クルーズを企画してきました。しかし、次世代のエコシップは、自分で所有することを目指しています。

下のイラストを見ると、郵船クルーズのエコシップと比べて先鋭的で、いかにもエコシップと言える姿をしています。

この船の特徴は、太陽光発電などで二酸化炭素の排出を約4割軽減できる点です。

まず目に入るのが8本の大きなマストです。風を動力にと書いてあることから、帆船の機能を持っていると考えられます。このマストが風の向きに応じて回転する構造になっています。そしてそのマストには、太陽光パネルが設置されています。この面積だとまだまだ発電量は不足ではと感じてしまいます。また帆と兼用されるため、軽量化をかなり頑張る必要があると思います。風による推進力、太陽光による発電で、本来の航行の何パーセントを省エネ化できるのか手元資料では詳細はわかりません。やはり、LNGを主要燃料として発電機を動かすことでモーター/スクリューを回すことによる推進がメインになるものと考えられます。

 

外観も内装も、本当に夢のあるデザインです。

インフィニティプール

メインダイニング

シアター/ステージ
これだけ豪華だと、まず気になるのが建造費です。このようなデザインで環境を守るために払うコストは相当高くつくと思われます。

報道から、建造費は570億円とも言われています。NGOであるピースボートにそんな資金は無いはずです。これはクラウドファンディングやその他の基金、個人投資家から募るそうです。大丈夫なのかなとちょっと心配になります。

新しい客船の国際安全基準に適合するよう仕様変更の必要が生じたため、日程が大幅に遅れることが発表されました。その時にも、資金繰りが行き詰ったのではとか噂されまた。造船を依頼したチエルアークテック・ヘルシンキ造船所は、コロナの影響で操業できない期間が続き、それも遅れの原因になっています。

ではいったいいつピースボートのエコシップが就航できるのでしょうか?

ピースボートのホームページには、2027年にエコシップを使用した世界一周クルーズの募集が3本掲載されています。すでに多くの人が予約していることから、ここがまずはターゲットかなと思っています。

 

その他、MSCも初のエコシップを発表しています。

これから、次々に夢のあるエコシップのクルーズ船が登場し、私たちを楽しませてくれるものと思います。

エコシップで世界一周クルーズ旅行する日を期待して待ちたいと思います。